葛飾区研究指定校としての研究を始めるにあたって

校長  目々澤 幸雄

『学校は面白くなければ、学校じゃない』とずっと思ってきました。
 では、なぜ、学校は面白いのか。「行事や部活が楽しいから」とか、「友達がいるから」とか、理由はいろいろです。しかし、『学校が面白い』と言えるためには、「授業が面白い、勉強することが楽しい」といえなければならないはずです。
 ところが、「中学校の授業は面白くないし、今のままでは役に立たない」と昔から言われてきた事実があります。また、「画一的な一斉授業のスタイルでは生徒の多様な思考力を育むことができないから、学校の授業は変わらなければいけない」とも、近年盛んに指摘されるようになってきました。さらには、社会全体の IT 化が進み、AI 知能の活用が拡大し、新しい仕事の形が生まれてくる中、旧態依然としたままの学校の学びや授業の形では、対応できないという危機感さえも、生まれてきています。
 つまり、学校教育は、大きな転換点を迎えているといえるでしょう。このような時に、中川中学校は、令和4年度・5年度の葛飾区教育研究指定校となりました。本校の研究テーマは、『子供たちに、自ら学ぼうとする姿勢を育み、「主体的・対話的で深い学び」を実現する ための指導方法の研究』としました。
 本校がこのようなテーマでの研究を意図した背景には、冒頭に述べたような学校教育の危機、あるいは、大きな転換点にあたって、改めて学習指導要領で求められている「主体的・対話的で深い学び」に示されている新しい学びの形をいかに具現化するかが求められていると考えたからです。
 それは、学習指導要領で求められている新しい学びの形を実践することが、子供たちに学習への意欲関心を巻き起こし、進んで学ぼうという姿勢を引き出すことになり、さらには、IT 化が進む社会の中で自立して、生きていくための能力を育成することにつながるはずだと考えたからでもあります。
 そして、もし、この新しい学びの形を、学校教育を通して生徒に定着させることができれば、一人一人が多様で柔軟で、持続可能な社会の実現に寄与しながら、それぞれが主体的に自分の人生を生きていこうという意欲が生まれてくるはずです。さらに、一生涯にわたって学び続けようという向上心が生まれるきっかけとなるだろうと考えています。
 このような「新しい学びの形」を創造するために、私たちは次の4つの視点で研究を深め、実践を重ねていきたいと考えました。

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1.鹿嶋真弓(立正大学)と共に学ぶ『問いを創る授業』の実践

子供たちが「知りたい、学びたい」と思い、自ら学習に向かうためには、学習事項について、疑問と思うこと、知りたいと思うことを明確にする必要があります。
 その上で、どうすれば調べたり考えを深めたりすることができるのかを考えるなど、学習課題を解決するための目標と手順について、意識的に整理させていくことで、自ら学ぼうという意欲を引き出していくことが可能になります。
 この視点で、『問いを創る授業』の実践を推進してこられた鹿嶋真弓先生のご指導を受けながら、子供たちが自主的・主体的に学習に取り組んでいく授業を創っていく授業研究を全教科で推進していきます。

2. 話し合い、学び合い、教え合い学習の展開

子供たちの主体的学習を保証するために欠かせない学習活動が、「話し合い、学び合い、教え合い学習」です。子供たちが、学びを深めるという共通の目標の実現に向けて、お互いに協力し合いながら学習を進めることで、お互いの学習や理解を深めていくことが可能になります。この話し合い学習を実現するためには、課題の提示、話し合いのルールの確立など、様々な配慮への研究が必要です。そして、子供たちが自由に話せる雰囲気をどう作るか、さらに、自由に話したことをしっかり聞いてもらえるという安心感が必要です。そのためには、教科の授業だけでなく学級・学年の経営を工夫していく必要があります。
 この視点でも、鹿嶋真弓先生は『構成的グループエンカウンター』の指導と実践における第一人者なので、鹿嶋先生から貴重なアドバイスを得られるものと確信しています。たくさんのことを学びながら、学級経営と授業の充実についての研究を深めていきたいと思います。

3.自分自身の学びを振り返り、自主的な学習へと導く「振り返りシート」の実践

今、自分は何を学び、どこまで理解していて、何を調べたり、補ったりすればよいかをいつも自分自身で考える習慣を養うことが、学びの定着と深まりには欠かせません。
 このような能力を「メタ認知能力」と呼びますが、そのような学びの定着と深まりのために、「振り返りのためのスプレッドシート」と「自主学習ノート」の活用を組み合わせて、子供たちの自主的な学びの習慣化と学習事項の定着、自分自身を振り返る能力の充実を実現するよう研究を推進します。

4.個別最適な学習を実現するための生徒理解の充実

「自主的・主体的な学習」や「話し合い・学び合い・教え合いの学習」を進めていくにあたって、その学習の流れに沿って、学びを深めていくことができない生徒が、どうしても存在することが予想されます。
 そのような生徒の様子を「見取りの充実」、「I−check」の実践、「情報の共有」によって、あらかじめ事前に把握することが必要です。この情報を下に、それぞれの子供たちにとって個別最適な学習の提供へとつなげる効果的な指導方法の実践を推進します。

 今春、「中川中学校は、誰とでも仲良く話すことができる学校です」と言って、3年生が卒業していきました。これは、この数年鹿嶋先生のご指導を受けながら、「話し合い・学び合い・教え合い」の方針の下、「問いを創る授業」に取り組んできた成果なのではないかと 考えています。これからも新しい学びの形を目指して、中川中学校は前進していきます。

ご挨拶

立正大学 鹿嶋 真弓

今年度も引き続き、中川中学校に関わらせていただくことになりました立正大学の鹿嶋真弓です。
 校内研修会で何度となく授業参観させていただく中で常に感じるのは、「学ぶ土台」ができているということです。具体的には、人的環境、物理的環境が整っていること、中でも生徒同士の話し合い活動は、目を見張るものがあります。この学ぶ土台は、簡単にできるものではありません。生徒と先生で創り上げてきた中川中学校の伝統といえるでしょう。

 授業での生徒同士の話し合い活動を通して、「みんなってすごい(他者理解・他者受容)」「自分ってすごい(自己理解・自己受容)」と思える体験を積み重ねることで、誰もが本音で語れるようになってきます。こうして、人の中で人は育つ「学びの土台」が構築されたのでしょう。生徒たちは互いにその人の良さを認めながら、その人の話に耳を傾けると同時に、自分の考えも自信を持って発言できるようになってきます。この、互いに認め合える関係ができたクラスは、自然にプラスの方へと成長していきます。そして、「生徒、自らの学び」を引き出すため、中川中学校のすべての教育活動が展開されていきます。

 「聞く力」の育成では、まずは先生方が生徒の話に耳を傾けていらっしゃいます。この日常のかかわりが生徒との信頼関係の第一歩となり、ひとり一人の生徒と先生がつながっていきます。さらに、先生方の「聞く」姿勢が、生徒のモデルとなり、自然と人の話が聞けるようになっていきます。その結果、生徒と生徒も互いの話を「聞く」ことで、つながっていきます。こうして、少しずつ、信頼関係が構築され、授業の中での学び合いが成立するようになります。つまり、自己教育力のある集団へと成長するのです。

鹿嶋 真弓 先生 問いを創る授業本

ところで、『馬を水辺につれていけても水を飲ませることはできない』というイギリスのことわざがあります。これは、「馬が水を飲むかどうかは馬次第なので、人は他人に対して機会を与えることはできるがそれを実行するかどうかは本人のやる気次第である」という意味です。これを、授業中の生徒に置き換えて考えてみましょう。どんなに素晴らしい授業の機会があっても、受ける側の生徒自身のやる気次第であるということです。人は得たいものしか得られません。授業においても同じです。この授業で何を知りたいか、何を身につけたいか、生徒が決めるのです。
 2021 年、中学の新学習指導要領が全面実施されました。中川中学校では、その前の移行期間から、主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善)に向け、いち早く「問いを創る授業」の実践に取り組んできました。問いを創る授業とは、課題発見・設定・解決学習のことで、主体的・対話的で深い学びを実現する授業の具体策です。「なぜ? なに? 知りたい!」という生徒の疑問(問い)や興味を大切に、自ら考え、創造的に学ぶ力をはぐくみます。すべての教科で取り組むことで、生徒の Meta-Learning(メタ学習:学習の仕方を学習する)が促進され、転移学習(ある領域で学習したことを別の領域に役立せ、効率的に学習させる方法)へと発展していきます。

 以上のことを実現するために、中川中学校では、「自分ログ」、「自主学習ノート」、「学習を振り返るスプレットシート」を活用しています。いずれも、自身の状態を「メタ認知」するために準備されたものです。成長とは変化することです。何がどのように変化したかを知るためには、今の自分は、何ができて(わかって)いて、何ができて(わかって)いないのかを区別できることが大切です。これを知ることで、これからどうすればいいのかについて、考えてことができるわけです。

 こう考えると、中川中学校におけるすべての教育活動は、“自由で伸びやかで、お互いを信頼し合える学校”を実現するためのプログラムや活動、ツールが見事につながっていることがわかります。中川中学校での目々澤校長先生はじめ教職員、生徒同士の出会いは、この学び舎で学んだ生徒にとって、一生の宝となるでしょう。

研究取り組み